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平成20年12月号

市場事務所便り
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社会保険労務士 市場 敬將
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ますます深刻化する
「消された年金問題」

◆次々見つかる標準報酬月額の改ざん
 厚生年金の計算をする際に使われる「標準報酬月額」の改ざんが発覚した、いわゆる「消された年金問題」ですが、その広がりが深刻化しています。
 政府の発表によると、標準報酬月額のコンピュータ記録1億5,000万件のうち、5等級以上も下げられた記録が75万件に上ることが判明しました。厚生労働省は、処理が不適切だった可能性の高い約6万9,000件を優先的に調べるようですが、実態の把握は困難であり、被害者の救済にも時間がかかりそうです。

◆記録改ざんの背景は
 標準報酬月額は、厚生年金の支給額を決めるときの基準となる毎月の報酬であり、1〜30の等級に分かれ、どの等級に該当するかで支払う保険料が決まってきます。この標準報酬月額に対して、事業主が過去に遡って報酬を減らしたり、加入期間を短くしたりするのが改ざん行為の代表例です。これらは、社会保険事務所職員と経営状態の苦しい事業主が相談し、改ざんしたケースも多いといわれています。
 この背景には、社会保険事務所における内部事情があります。事業主が保険料を滞納すると社会保険事務所の徴収成績は下がってしまいます。担当職員が徴収成績を上げるための効果的な手法として、「本来納めるべき保険料よりも少なく払ってもらう」という働きかけを事業主に対して行っていた可能性が高いようです。
 社会保険事務所の上司の指示により組織的に改ざんしたケースや、自然に職員の間に広まっていったケースなどもあると見られています。

◆被害者の救済が急務
 最も問題となるのは、被害者の救済です。例えば、標準報酬を30等級(62万円)から25等級(47万円)に下げられたまま40年間にわたって保険料を納付すると、老後にもらえる年金が概算で月3〜5万円程度減ってしまうことになります。多くの場合、事業主は報酬を引き下げたことを従業員には隠しており、受給年齢に達するまで年金が減ることに気が付かないことが想定されます。社会保険庁では、戸別訪問などを始めているようですが、すべての受給者の確認作業が終わるのはまだまだ先となってしまいます。
 この問題に関して、報酬の記録を確認したい場合は、社会保険事務所に行くか、社会保険庁の「年金個人情報提供サービス」(http://www.sia.go.jp/sodan/nenkin/simulate/)で照会するなどの対策を取るとよいでしょう。



未払い残業代の支払い等を求める
労働審判や民事訴訟

◆サービス残業への是正指導が過去最多に
 従業員に残業代を支払わなかったとして労働基準監督署から是正指導を受け、結果的に1社で100万円以上の未払い残業代を支払った企業の数が2007年度に1,728社(前年度比約3%増)となり、厚生労働省が集計を開始した2001年度以来、最多を更新したことが明らかになりました。また、支払総額も計272億4,261万円(同約20%増)となっており、同じく過去最高を更新しています。
 同省では、「労働者やその家族の方などから、各労働局、労働基準監督署に対して長時間労働、賃金不払残業に関する相談が多数寄せられており、これらに対して重点的に監督指導を実施した結果である」と分析しています。
 このようにサービス残業は依然として増加傾向にあるようで、最近では「名ばかり管理職」「偽装請負」に関する問題などもあり、労働者や退職者が未払い残業代の支払いや地位の確認などを求めて労働審判や民事訴訟などを提起するケースも増えています。
 以下では最近の事例を見てみましょう。

◆グッドウィルの元支店長らが労働審判申立て
 今年の7月末に廃業した日雇い派遣大手「グッドウィル」の元支店長ら19人(25歳〜49歳のいずれも男性)は、自分たちは「名ばかり管理職」として扱われていたなどとして、同社を相手に未払い残業代(合計約6,721万円)の支払いを求める労働審判を、東京地裁に申し立てたそうです。請求している未払い残業代は1人あたり約120万円〜635万円です。
 また、4人については、廃業に伴って解雇が行われた際に十分な退職金の積み増しや再就職先のあっせんが行われなかったとして、解雇の違法性についても争うとのことです。

◆元自転車便スタッフが正社員地位確認の民事訴訟提起
 バイク便大手である「ソクハイ」の元自転車便スタッフの男性(31歳)は、個人事業主として運送請負契約を締結して業務を行っていたが、会社の指示に従って運送を行うなど自由裁量はほとんどなく、実態は正社員と変わらなかったとして、同社を相手に「正社員としての地位確認」と「約360万円の損害賠償」を求める訴訟を東京地裁に提起しました。
 男性は営業所長として採用面接やスタッフの教育なども行っていたようであり、「同社に指示監督されており。偽装請負状態だった」と主張しているそうです。



業績悪化に伴う内定取消は
どのような場合に認められる?

◆業績悪化に伴う内定取消が増加
 米国のサブプライムローン問題に端を発した世界的な金融危機に伴う急激な株価下落や景気悪化の影響による企業の業績悪化・業務縮小・事業撤退などを理由として、来春就職予定の学生の内定が取り消されるケースが相次いでいるそうです。業種は、不動産、住宅販売、建設、生命保険、ホテル、情報通信、システム開発、専門商社など多岐にわたっています。
 大学側では「企業の業績悪化が深刻化してくるとさらに内定取消が増加するのでは」「実際にはもっと多くの学生の内定が取り消されているかもしれない」「この時期にこんなに内定取消が相次ぐことはここ数年間なかった」などといった不安の声もあがっているようで、また、2010年春に卒業・就職予定の現在の大学3年生の就職活動にも影響が出てきそうです。
 企業・大学・学生いずれにとっても非常に深刻な問題である内定取消は、どのような場合に認められるのでしょうか。

◆裁判所の考え方は?
 内定取消は、一般的に「客観的にみて内定を取り消してもやむを得ない事情がある場合」にのみ許され、単なる業績悪化だけを理由として簡単に認められるものではないとされています。
 裁判例(大日本印刷事件:最判昭和54年7月20日)では、会社が応募者に「採用内定通知」を発して、応募者がこれに応じる旨の「誓約書」を提出した場合には、入社日を「採用内定通知」に記載された時期とし、「誓約書」に記載された採用内定取消事由が発生したときは当該契約を解約できるとの解約権が留保された労働契約が成立していると考えられる、としています。
 さらにこの留保解約権については、内定の当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる、としています。

◆「整理解雇の4要件」との関係
 また、経営悪化を理由とする採用内定取消の場合について、いわゆる「整理解雇の4要件」の考え方に沿った判断を下した事例がありあます(インフォミックス事件:東京地決平9年10月31日)。
 この事案では、(1)人員削減の必要性、(2)採用内定取消の回避の努力、(3)人選の合理性は認められるが、(4)手続きの面において十分な説明が欠けていたとして、採用内定の取消が無効と判断されています。したがって、採用内定を取り消すべきかどうかは、上記の4要件の考え方に沿って慎重に考えなければなりません。



深刻な「下請けいじめ」
「下請けたたき」の実態&対策

◆急増する「下請けいじめ」
 東京都は、2008年4月から10月の間に「財団法人 東京都中小企業振興公社」に寄せられた下請け取引に関する相談件数(親事業者と下請け企業に関する禁止事項を定めている「下請代金支払遅延等防止法」に抵触する可能性のあるもの)が214件となり、2007年度の通年実績(80件)の約2.7倍に達したと発表しました。景気の後退を背景として不当な事例が増加しているとみられ、過去最高のハイペースで推移しています。
 相談の内容は、「売上金回収時に一方的に値引きを迫られた」などといった代金回収に関するものや、「予告なしに突然取引中止を告げられた」などといった取引契約に関するものが多いそうです。
 以前から「下請けいじめ」は問題となっており、中小企業庁は「下請代金支払遅延等防止法」に基づいて下請け取引が適正かどうかを調査して改善指導を行っていますが、これまでに他にも様々な対策を打ち出しています。

◆原油高対策としての下請け取引適正化
 中小企業庁では原油高となっていた今年8月に、下請け取引の適正化を促進するための対策を発表しました。これは、原油高を理由とする価格転嫁が難しい中小企業が多いため、大企業による不当な下請け取引の強要を防ぐのが狙いでした。
 具体策としては、原油高の影響が大きいと考えられる建設・自動車などの業種を中心として、代金の支払遅延など問題のある行為があるとみられる大企業から事情聴取を行い、特別立入検査も行うとするもので、8月下旬から実施されています。

◆「下請けたたき」通報制度
 また、厚生労働省では今年の7月に、労働基準監督署が賃金不払い等を把握した場合、その原因がいわゆる「下請けたたき」であると認められるときには、公正取引委員会や経済産業省に通報する制度をつくるとの方針を発表しました。同省では、中小企業の労働者保護のためには下請け問題への対策が必要と判断したものです。
 また、同省では、同省が発注する公共工事について、元請業者と下請業者との間に契約等に関してトラブル(原価割れ受注を強要された、割引困難な長期手形を交付された等)があった場合の下請け業者のための相談窓口(「下請けに関する相談窓口」(http://www.mhlw.co.jpsinsei/chotatu/dl/02.pdf)を設けています。



今月のことば

 4月9日、新入生歓迎会で講演するため、都内目黒区大岡山にある東京工業大学に行ったが、盛りの桜がきれいだった。
 入学式を終えた学生たちが、構内のそこかしこで親と一緒に写真を撮っている。ほとんどの親がついてきていて、新入生だけというのは、むしろ珍しい。
 そんな光景に驚きながら、私は開口一番、新入生に、「スナオになるな!」と言った。
スナオになって親や大学の先生の言うことを聞き、「いい学校」から「いい会社」へという神話を疑わずに進んだら、あなた方を待っているのは、まちがいなく過労死だ、と。
 私は、大学および大学教授はヒモノだと言っている。それに対して、良かれ悪しかれ、会社はナマモノであり、ヒモノにナマモノのことはわからないのである。
 親のうち、とくに「亭主達者で留守がいい」の母親がまた、まったく会社のことを知らない。ところが、学生はこの母親と大学のセンセイを頼りに、進路を決めてしまう。「いい会社」に過労死があり、スキャンダルがあることを知らずにである。だから私は学生に、スナオを捨てよ、と訴えた。軽信から出発すのではなく、深く疑うことからスタートせよ、と説いた。

佐高 信 著
『官僚国家=日本を斬る』より抜粋



〜当事務所より一言〜

 ある漫画の話をします。主人公の殺し屋が請け負った、依頼人の話です。
 その依頼人は、大富豪である父の引いてくれたレールにのって成長し、そんな自分が嫌になり殺し屋に自殺の依頼をします。ゴルフ場でプレイ中に完全犯罪によってその依頼人は殺害され、その後、父に依頼人からの遺書が届き、父は愕然とするという話です。
 最近、その依頼人によく似た人が話題になり、その人の話をしていたところ、こんな漫画があるということを聞きました。しかしながら、この依頼人によく似た人の言動をみていると、レールに引かれた生涯を送っている人は、依頼人の様に自分は実は不幸である、ということにも気づかないまま生涯を終えるのでは…と思う今日この頃です。
 今年もあと1ヶ月で終わろうとしています。よいお年を迎えられますようお祈り致します。

(町田)